SOUTH SEAS VOICE WORKSHOP

遥かなるバジョの村、カバルタン 6

さて、カバルタンには、もうひとり気になる人がいる。島の誰もが認める漁の達人、マンドールさんだ。爆弾や薬物、酸素チューブなどに頼って漁をする人たちと違い、彼は水中メがネとモリだけで素潜り漁をする。30分間は海に潜ったまま魚を捕ることができると人は言うが、本当だろうか…。家と家の隙間に敷かれた細い板の上を通って行くと、小さな家が海の上に建っている。マンドールさんと奥さん、そして、娘がこの家の居住者だが、私が訪れると、いつの間にか人がたくさん集まってきて、十数名に囲まれる状態になった。彼自身の家族と、親戚、近所の人との間には仕切りがない。この家への出入りは、みな自由だ。

年齢を聞くと、マンドールさんは、だいたい50歳ぐらいとのこと。よく知らないのだそうだ。奥さんが44歳なので、それよりも歳上のはずだという。彼と話す時は、大きな声を出さないといけない。いつも海に潜っているので、水圧で耳がやられてしまったのだという。小さい頃から親に連れられ、漁を学んだというマンドールさん。かつては船の上で寝泊まりしながら漁をし、1週間は家に帰らなかったという。結構な稼ぎになったというが、彼も、今は昔に比べ、魚の量が減っていると、嘆く。カバルタン近海は、爆弾漁や薬物漁で、だメになってしまったのだ…。今、マンドールさんがよく魚を捕っている場所は、村から船を漕いで1時間ほどの海。奥さんと一緒に漁に出ることが多いが、奥さんは船を漕ぎながら歌を歌うのが好き。マンドールさんは、その歌を聴くのがとても好きだそうだ。漁場に着くと、早速、素潜りを開始。海の下10メートルぐらいにあるサンゴ礁を、泳ぐというより歩きながら獲物を狙うマンドールさん。手と足で水を掻きながら海中を行く。そして、自分で造ったモリで魚を突く。その姿がとてもカッコいい。まさに海の民だ。