マビニ通り沿いにある24時間営業のバー。というか軽食喫茶店のような感じのところだが、エプロンをした女性たちが何人も働いている。その中にひとり、日本語が少しできるお姉さんがいた。
「マニラは初めて?」
「え?日本語できるの?」
「私、昔日本で働いていたの。」
「へえ、どこで?」
「福島で。ジャパゆきさんよ、私。」
ジャパゆきさんという存在は本などで知っていたが、そうか、エルミタといえば、そういう女性がいっぱいいてもおかしくないところだ…。
「マニラの生活はとても大変よ。毎日の生活は食べるだけで精一杯。私はここで働いて、食事はこの店で出来るけれど、お金はなかなか稼げないわね。」
「そうか。けど、毎日働いてどのくらい貰えるの?」
「こうやって、自分の相手をしたお客さんが頼んだお酒やジュース1本につき、いくらって、お金をもらうの。」
「へえーっ。そりゃ、ごめん。僕はお酒飲まないから、儲けにならないじゃんか。じゃあ、インスタント・ラーメンでも頼もうか。」
「いいのいいの、無理しないで。」
フィリピンのバーの女性というのは、客から金をせびるばかりかと勝手に思っていたが、そんなことはなく、ごく普通に明るく接してくれる。ここはいわゆるキャバレーではないし、気楽に来れそうだった。
ミスター・アジズが来た。彼はモスリムだが、とてもリベラル。ワインを片手にフィリピン女性と語る。アラブ諸国にはフィリピン女性が多く出稼ぎに行っているが、ホスピタリティー溢れる接客が好まれているのだろうか…。早朝着の疲れも残っていたので、しばらくバーで喋った後、先にホテルに戻り、床についた。