SOUTH SEAS VOICE WORKSHOP

マニラの物語 9

翌朝起きると、昨日までの出来事がまるで夢のように思えた。しかし、現実のことだ。火事の現場はどうなっただろう…。見に行ってみると、ビルは焼け焦げて黒くなっていた。火事の原因はいったい何なのか…。まわりの人に聞くと、放火だと言う。でも、何のために…。あそこに住んでいた人はいったいどうなったのだろう…。日本のように、火災保険はあるのだろうか…。いや、多分ないだろう。火事のせいで人生を変えられてしまった人が必ずいる。損害を賠償することができるのだろうか…。お金持ちならば何とかなるかもしれないが、相当古びたビルだったから、きっと貧乏人が住んでいたにちがいない。

この街の生活はギャンブルのようなものだ。明日のことはまったく分からない。こつこつ働いてためたお金が、一瞬としてなくなってしまうこともある。いつどこで落とし穴が待っているか分からないのだ。その落とし穴に入ってしまい、そこから一生出ることのできない人もたくさんいる。あるいは最初から穴の中にいて這い出せない人もたくさんいる。人を騙すことによってお金を儲ける人もいる。また、そんな彼らでさえも、もっと大きな存在によってコントロールされる。しかし、彼らに悲壮感がないのはなぜだろうか…。彼らは与えられた人生を精一杯エンジョイしているのだ。彼らは本当にたくましい