SOUTH SEAS VOICE WORKSHOP

遥かなるバジョの村、カバルタン 1

2017年は、あるドキュメンタリー番組の取材で、たくさんの時間を費やした。テーマは「赤道」。丸い地球、赤道の下には、実に様々な人間が、色々なスタイルで生活を営んでいる。番組はシリーズもので、アフリカ、南米へ取材に行くチームもいるが、当方の担当はインドネシア。赤道周辺国としては最も大きく、文化のバラエティー豊かさも、きっと世界一であろう。面白いものが撮れると思った。とは言え、情報は限られており、赤道近くのどの辺りに、どういった民族が住んでいるのか、ターゲットを絞るのは容易でなかった。ネットで片っ端から情報を探し、西はニアス、東はパプアまで細かく見ていった。1ヶ月ほど検討を重ね、ようやく取材対象を、西スマトラのミナンカバウ族、西カリマンタンのダヤック・イバン族、そして、中部スラウェシ、トゲアン諸島に住むバジョ族に決めた。すべてを話すには、スペースが足りないので、今回最も印象的であったバジョ族についてお話しすることにしよう。

トゲアン諸島を含むスラウェシ島各地に、点々と居住する「バジョ」。「海の民」とも呼ばれる彼らは、もともと海上に居を構え、漂流しながら各地を 渡り歩いていたという。海の民と言えば、以前、フィリピン南部、ミンダナオ島のダヴァオで、「バジャウ」と出会ったことがある。それは、港へ行った時のこと。海で泳いで いる子供たちを見ながら、コインを投げる人がいた。海の中に落ちるコインを、素潜りでキャッチする子供たち。水中メがネもかけす、よくできるなあ、と感心した。ダヴァオの住民の多くはキリスト教徒であるが、バジャウはイスラム教徒。
そして、生活は貧しい。その時は、彼らのことを深く知ることはできなかったが、いつかバジャウの村を訪ねてみたいと思っていた。そんな「バジャウ」を、インドネシアでは「バジョ」と呼ぶ。今回、赤道近くにもバジョの村がある ことを知り、取材したいと思った。トゲアン諸島へ行くのは結構大変だが、一昨年、対岸の街、アンパナに空 港ができ、中部スラウェシ州の州都パルとを結ぶ飛行機が1日1便飛ぶようになった。また、アンパナからトゲアン諸島の中心の街、ワカイまでは、フェリーで4時間ほどという情報があったが、これも詳しく調べると、一昨年、高速船のルートができ、一時間弱で行けるようになったという。