SOUTH SEAS VOICE WORKSHOP

遥かなるバジョの村、カバルタン 4

あるおばさんが「家に来て欲しい」と言うので、ついていった。そこには、20歳代の青年が苦しそうに寝ていた。

話を聞くと、数日前、海で事故に遭ったのだという。かつて、魚を求めて海を漂流し、ここに拠点の村を作ったバジョの人々。スラウェシ島中部のこの辺りは、大きな湾になっており、全体的に穏やかな海であることから、絶好の漁場であった。しかし、最近は水揚げが減っているという。その原因のひとつが爆弾漁や薬物漁だ。手っ取り早く水揚げ量を増やすため、爆弾や薬物を使って魚を気絶させ、海に浮かび上がった魚や、底に沈んだ魚を集めるのだ。これによって、カバルタン近海の珊瑚の多くが破壊され、結果、魚の量が減ってしまった。漁師たちは今、より遠い漁場へ行くことを余儀なくされている。また、魚が減ったことから、より高価で取引されるナマコの漁も盛んに行われるようになった。酸素チューブを使いながら深海に潜り、ナマコを探す。先ほどの事故に遭った青年は、これを行なっていたのだが、長時間深海に潜り、気がつかないまま酸欠状態になってしまった。海中で下半身が麻痺し、溺れそうになっているところを助けられ、一命を取り留めたそうだ。話を聞くと、彼の父親も以前、同様の事故に遭い、それ以来、漁に出られなくなってしまったという。同じ間違いを繰り返すとは…。下半身は感覚がなくなり、上半身もかなり痛そうにしている青年。村に医者はいない。アンパナの病院に連れて行くお金もない。この村で病気になった時は、村の霊媒師が「治療」するそうだが、感覚が戻るよう、彼の足を火で炙ったという。見せてもらうと、足が黒く焼き焦げていた。これは明らかに間違っている…。すぐに止めるように言った。彼らは病気に関する知識も乏しい。大きな改善には繋がらないが、その時は、日本から持って来ていた湿布薬を彼にあげた。少しは痛みも和らぎ、良くなって欲しいと思った。しかし、9月、2回目にカバルタンを訪れた時、彼はもう家にいなかった。数日前に亡くなったということだった。