ロケハンをひと通り終え、11月、いよいよ本番。東京からのクルーは私を 入れて5人。機材はトランク11個、個人の荷物5個の大所帯なので、アンパナから高速船をチャーターした。カバルタンには宿泊施設もない上、電気 や電話も基本ないので、トゲアン諸島の中心、ワカイに拠点を置いた。ロケハン時に使った 小さな船だと、時間も相当かかるが、高速船だと40分で 行くことができる。
毎日、撮影した後、データのコピーとバックアップのために電気は不可欠。宿の近くに火力発電所があるが、ロケハン時は電気が不安定で、特に雨が降 ると必ず停電していた。しかし、今回は比較的安定している。携帯電話の電 波も良くなっている。キャリアには、インドサットとテレコムセルがあるが、テレコムセルの方は、データ通信の4Gも繋がるようになった。ドローンなどの機材は、常にアプリのアップでートが必要なので助かった。
今回の宿泊は、中国系の女性がオーナーの大きな宿だ。ロケハン時、1泊したことがあるが、その時はスタッフが少なく、対応にも不満があったが、今回はオーナー自らが世話を焼いてくれた。 長期ロケの間、スタッフが切望するのは、食事とビール。毎日同じメニューだと飽きるので、なるべく違うものが食べられるように工夫してもらう。とは言っても、無難なナシゴレン(焼き飯)やミーゴレン(焼きそば)は、主食として毎日登場する。また、イスラム教徒の多いインドネシアの田舎で、ビールを探すのは容易でないが、この宿には、しばしば西洋人の観光客も来 るので、ビールがある。私は飲まないので気持ちがよく分からないが、冷えたビールがあることを知っていれば、そのために1日一生懸命仕事ができる、と皆は言う。
カバルタンでは、陸上での撮影のほか、ドローンを使った空中撮影、船に 乗っての水中撮影もあった。しかし、いつも撮影できるわけではない。やはり、カラッと晴れた青い空に、太陽の光が反射する美しい海を撮りたい。水中撮影を手伝ってくれた地元ダイバーのアンワルさんによれば、満月の3日後は、天気が良いという。その話に根拠はないが、経験としてそうだというので、スケジュールもそれに合わせていたが、その通りになった。
カバルタンの海の風景、村の人々の生活、双子の学生バゴンとカドリ、漁の 達人マンドールさん…。たくさんの物語を取材し、すべて終えた時は、私自身もバジョの家族の一員になったような感じがしていた。次はいつ帰ることができるだろうか…。遥か彼方のカバルタン。しかし、心はいつも近くにある。
(おわり)