SOUTH SEAS VOICE WORKSHOP

オックンチュラン・カンプチア 4

2月19日(金)
 朝5時に隣りのフランス人の貸してくれたアラーム時計が鳴った。しばらくゆっくりした後、顔を洗って歯磨き。5時45分頃部屋を出て、下のレストランへ。熱い紅茶を飲んでいると、バイク・タクシーのおっちゃんがやってきた。昨日教えた日本語を復習してきたらしく、数字も一応言えるようになっていた。カンボジアの人は本当に何をするにも熱心だ。このおっちゃんもそうだが、物売り一般も心が痛むのか、値段をボることはやり通せないみたい(それでも、外国人には少しはボッているのだろうが)。
 バイクに乗りつつ、新しい日本語をおっちゃんに教えながら空港へ。帰りは月曜日の10時の予定なので、また空港に迎えにきてもらうことにして別れた。
 7時30分発の飛行機のところには日本人観光客もいっぱいいた。「JTB」と書いてあった。同じ飛行機かと思ったが、彼らはジェット機(チャーター?)で、私だけひとり別の小さなプロペラ機だった。独特のゴォーンという音をたて飛び立つが、椅子も震えるし、大丈夫かなあ…。
 1時間もしないうちにシェムリアップ空港に着いた。プロペラ機の方が先に飛んだのに、ジェット機の方が先に着いていた。やはりこれが実力。ジェット機の日本人一行にはお迎えのバスが来ていたが、私には勿論ない。飛行場の出口までひとり歩いて行き、ここでまたたむろしているバイクの兄さんに声をかけられる。街までいくらか?「5ドラー(ドル)」というので「たけーよ!」と言ったら、すぐ1ドルになった。
 シェムリアップにはゲストハウスがいっぱいある。1年ぐらい前に新しく出来たらしいが、アンコールワットを目玉とする観光産業に力を入れている趣であった。ただ、そのゲストハウスは街のあちこちにバラバラと点在しているので、これでは経営もなかなか難しいのでは…。1カ所あるいは1本の道に集合していた方が客は集まると思う、と地理学出身の私は分析してしまう。
 私は「No.099」というゲストハウスに泊まることにした。シャワー・トイレ別で1泊5ドルであった。ちょっと高いが、どこのゲストハウスも同じ料金なのだという。まあ、新築で小綺麗だし、おばちゃんも良さそうな人なのでオーケーとした。
 このゲストハウスにいたバイクのおっちゃんがアンコール遺跡のことを説明してくれた。アンコールへ向かう道の途中のゲートで、入域料金として10ドルとられるのだそうである。そこで、彼は裏の道を知っているとのこと。そこを通れば料金はとられない。最初は大丈夫かな、と思ったが、ま、試してみよう。では、その入域料金分の10ドルで1日案内してもらおう。どうせ払うなら彼に払った方がいいだろうし。
 かくして「裏道アンコール・ツアー」を開始した。先ほど来た空港からの道を戻り、空港を越えてずっと進み、森というか林のようなところを越えて行く。地雷がそこら辺に埋まっているのでは?とも思ったが、それは大丈夫なのだそうだ(本当かな)。高床式の家々が建った農村を通り抜け、ガタガタの土の道を進んでいく。暑いがほのぼのとしたいい風景である。けれども、ここら辺は水など大丈夫なんだろうか。一応人が住んでいるのだから大丈夫なのだろう。
 そうこうしているうちに、まずはアンコール・トムの西ゲートに辿り着いた。雑草が覆い、壊れかけていた石門の上の方には大きな顔の石像。ここまで来た道も結構険しかったので、感動も一際。ここから先がいよいよアンコールの遺跡群である。
 アンコールトムの中心にはバイヨンというヒンドゥー寺院がある。寺院といっても、ほとんど遺跡のような感じで、壊れている部分も多い。この建造物の頂上には微笑んだ4つの顔の石像があり、この地域を広く見渡しているかのようだった。以前行ったインドネシアのプランバナンも凄かったが、こちらは手が入れられていないという点で、とてもリアルであった。バイヨンにはよぼよぼの爺さんがいて、ここを守っているようだった。ほとんど仙人のような趣。まわりを林に囲まれ、その空間の音の響きも面白い。
 アンコールトムの中の寺院を色々と見た後は、アンコールワットへ。この遺跡は巨大だ。敷地はざっとみて1km四方はあるのではないか。核となる建造物のまわりには堀があって、そこを広く囲っている。ちょうど私が訪れた時、日本語を耳にしたので何かと思ったら、テレビ朝日の記者が取材に来ていた。選挙関連の現地レポーターとして「ニュース・ステーション」によく出てくる人だった。
 アンコールワットは現在修復中で、多くの人がそこで働いていた。日本の援助も入っている。ポルポト派がしばしばここを襲撃し、大切な遺跡を破壊しているという話しも未だあるらしい。この巨大なアンコールワットの中程のところには、弦楽器を弾く物乞いがひとり。なんとなく不思議な雰囲気を醸し出していた。
 さて、アンコールワットを登る。高く続く階段は傾斜していて、足を滑らしそう。気をつけながら登り、上段に到着。そこから眺める風景は、森また森。雄大な風景が静かに広がる。自分がそこにいるのが夢のよう。建物の影で昼寝をしている人がいる。この場所で、この素晴らしい風景を眺めながら昼寝をするなんて、これ以上の贅沢はない。しばらく私はそこにたたずんでいた。
 夕方までぶっ続けで、ひたすら遺跡をまわり、かなり疲れていたが、最後に目指す丘の上の寺院をふらふらしながら一生懸命登る。まわりにくっついてくる子供の売り子は、さ慣れていて、さっさっさと登っていく。頂上に着いて眺めた夕日の向こうには、森の中に聳えるアンコールワットの全景が見えた。
 さて、帰りはお金を取られることがないので、普通の道を通り、5時頃にゲストハウスに着く。水浴びをして、一日お世話になったバイクの運ちゃんを誘って一緒にごはん。例の美味しいカンボジア・スープと焼きめし。ビッグサイズであったが、お腹がとても空いていたのでさらっと平らげた。
 今日の感動を夢に抱きつつ、9時には眠りの世界へ…。