しかし、マニラの空は暗い。曇っているからだけでなく、闇両替事件があったからそう感じるのだろうか…。夕方までハリソン・プラザをうろうろし、宿のそばにあるいつものバーへ行った。
「いらっしゃい!はい、ミリンダとインスタント・ラーメンね。」
「いつも悪いね。お酒飲めなくて。」
「いいのよ、気にしないで。」
「それより、いつもいるレイシェルはどうしたの?」
「インドネシアの船乗りがここにいつも来るんだけど、ちょっかい出されて今日は店に来てないの。」
インドネシアの船乗りなんか、金持ちではないだろうが、「フィリピンの女性は安い」と言って、若いレイシェルのところによく遊びに来るのだそうだ。日本人のオヤジが賃金の安い東南アジアへ買春ツアーに行くようなものだ。経済格差が生み出す悲劇が、この国にはたくさんある。そういった現実に生きる彼女達は、どうにか割り切って生きて行くしかない。
しばらく喋っていると、白い煙が見えてきた。「何だろう?」と思っているうちに、カーン、カーン、カーンという鐘の音。消防車がやってきた。火事だ!
店の前に人だかりができる。火事の現場は、なんと私のホテルの隣りの建物ではないか!見る見るうちに火が広がってゆく。私の部屋は大丈夫だろうか…。急いで部屋に行ってみるが、停電で真っ暗。手探りでとりあえず大切な荷物だけを持って、バーに戻る。白い煙が辺り一面に充満し、私のホテルに火が移らないか心配になってきたが、しばらくして火は収まった。
夜、遅い時間に部屋に戻ったが、停電のまま。エアコンももちろん動かない。暑いが、仕方なくそのまま寝ることにした。