SOUTH SEAS VOICE WORKSHOP

サラマッポ・ダバオ 3

1999年3月23日(火)

 部屋はマグサイサイ通りに面していて、朝から車の音がうるさく、早くから目が覚めてしまった。明け方、寒くなってエアコンを切ったが、起きた頃には汗びっしょりになっていたので、シャワーを浴びてリフレッシュ。さて、今日は何をするか…。昨日買った地図を眺めつつ、どこか地方へ行こうと思い、荷物をまとめ、チェックアウトの準備。フロントへ行くと、ギンギンがいた。
「おはよう!チェック・アウトするの?」
「うん、ちょっと地方に行こうかと思って…どこかいいところある?」
「フィリピンでいちばん高いアポ山に登るのっていいわよ。私達、ハルバウというレスキューボランティア・グループに入っているんだけど、よく登るのよ。」
ギンギンはご主人のジュベールさんと子供と3人で登った時の写真を見せてくれた。
「で、どのくらいかかるの?」
「そうねえ、だいたい5日間くらい」
「ひぇー!それはつらいねえ。山登りなんてあまりしたことないからなあ…」
「そうかあ…。じゃあ、サマル島はどう?ダバオから船に乗って1時間くらいのところにある島。私の故郷の島なんだけれど、海がとてもきれいだわよ。」
 うーん、今は海よりも山の方に行きたい気分だが…。
「アポ山はいいけれど、山の方は誘拐とかが頻繁に起きていて、外国人ツーリストの君にとってはやっぱり危ないね」と怖い顔のおっちゃん。
「それより、今晩、私達ハルバウのメンバーのひとりが誕生日で、パーティーをするんだけど、それに来ない?」とギンギン。
パーティーとは面白そうだ。ダバオの若者達と知り合うことができそうだし…。
 遠出はやめ、パーティーへ行くことにした。チェック・アウトしようと担いでいた荷物も部屋に戻し、身軽な格好で、昼間はとりあえず近場の街へ行くことにする。地図を見て適当な場所へ…。ちょうど宿の前の道からジープーニー1本で行けるところに、トリルという街があるらしい。特に何があるというわけでもないが、行ってみることにした。
 ジープニーは窓(ガラスなし)がかなり低い位置についているので、かがまないと外が見られない。ちょっと疲れる体勢だが、外の風景を楽しみながら、トリルまで1時間弱の道程。7ペソ。椰子の木が生え並ぶ道の途中、コカ・コーラやサンミゲル・ビールの工場が見えた。
 トリルはごく普通の街のようだが、遠くに山が聳えていてきれいだ。日差しが強く暑いが、椰子の木の陰に入ると涼しい。辺りは静かで落ち着いた雰囲気。街をぶらぶらしていると、映画館があった。フィリピンの映画らしい。看板の絵がとてもダイナミックで興味をそそるので、見てみたくなった。1階(オーケストラ)は25ペソで、2階(バルコニー)は30ペソ。2階で見ることにした。
 階段を上って中に入ると、正面のスクリーンでは,何やらゴレンジャーのようなグループが戦っていた。椅子に座ろうと思うが、辺りは真っ暗で何も見えない。外の強い日差しがとても明るかっただけに、目がなかなか慣れず、しばらく入口にたたずむが、5分ほどしてあたりが見えてきた。中はエアコンなしのムンムンとした空気。みなシャツを脱ぎ、上半身裸になって見ている。私は風が入ってきそうな後方に座る。
 映画は相変わらず戦いが続く。カンフーのようなものだろうか。ひとつ戦いが終わると、また次の戦いが始まる。まるで、TVゲームのようだ。延々1時間以上続き、終了。そして、次の映画が続く。今度はちゃんとしたストーリーのある映画だ。キャンパスのリーダー選挙に立候補した女性2人の争いといった感じだろうか。
 しばらく見ていると、雨が降ってきた。スコールだ。映画館の屋根に当たる雨の音がうるさく、声が聞こえない。まあ、聞こえてもタガログ語で分からないからいいか…。時計を見るとすでに4時であった。最初のつまらない戦いもののおかげで、時間のロス。しばらくして外に出た。雨はやみ、明るい空が広がっていた。
 来た道をジープニーに乗って帰る。トリルと反対の終点はアグダオという街。郊外からダバオを経由してまた郊外へ行くという路線のようだ。
 ギンギンとは5時にフォーチュン・インで待ち合わせしていたが、着いたのは5時20分頃であった。フロントには誰もおらず。部屋に戻りしばらく涼んでいると、ギンギンから電話がかかってきた。「アーユーレディー?」
 ギンギンに連れられ、外へ。隣接する上海レストランでタイムカードをガチャン。フォーチュン・インを含むこの辺りのビルはみな同じチャイニーズのオーナーらしい。ハルバウの拠点も近くにあり、そこも同じだそうだ。ガラスのドアを開けると、テントやリュックが並んでいた。そして、若者が数名たむろしていた。
「みんな、日本からの友達、タカシだよ」
「マガンダン・アラウ(こんにちは)よろしく!」
ギンギンの主人、ジュベールもいた。みんな若くて元気。英語で会話をしながら、だんだんと打ち解けてゆく。しばらく他のメンバーを待ち、今日の誕生日の主、クレアの家に向け、出発。場所はパンカラン。トリルとは反対方向で、北の方になるが、ジープニーで約1時間。ジープニーのお金はKKB。「KKB」とは「カニャ・カニャ・バヤド(それぞれ払う)」という意味。つまりワリカンである。冗談で誰かが「カム・カム・バヤド(君、君、払う)」だとも言っていた。ジープニーはハルバウのメンバーでほとんど貸し切り状態だったので、本来の路線から外れ、目的地クレアの家の前まで行ってくれた。
 クレアのうちは閑静な住宅街にある。もともとギンギンとジュベールだけが来るものだと思っていたクレアは、みんなが揃ってやって来たことに驚き、感激していた。すでに7時をまわっていたので、みんなお腹を空かせている。早速食事の準備だ。そう。食事も自分たちで準備する。メンバーのひとりがさんまのような魚を持ってきていた。クレアと一緒に塩をまぶし、焼く。みんなわいわい楽しんでいる。1時間ほどして出来あがり。白いご飯に焼き魚というシンプルなものだが、それがとても美味しかった。
 食べている途中、ある教会のグループが歌を歌いながらやってきた。キャロリングらしいが、フィリピンではクリスマスだけでなく、普段からこういうものがあるらしい。もうすぐ迎えるイースターの集会のための献金集めだそうだ。せっかくなので、タガログ語の歌を歌ってもらうことにした。今日のパーティーが誕生会だということを知ると、すぐに「ハッピーバースデイ」の歌を歌ってくれた。みんなからお金を集め、彼らにあげた。私も奮発し、10ペソあげた(少い!)。
 パーティーの後は、ハルバウのミーティング。来週、みんなでアポ山に登るのだという。その事前準備。彼らはタガログ語も使うが、ミンダナオ島周辺の言葉、ビサヤ語で普段話す。もちろん私は意味が分からないが、ところどころインドネシア語やジャワ語に似た単語が出てくるので、なんとなく想像できる。はさみはグンティン、靴はスパトゥ。これはインドネシア語と同じだ。数の数え方はジャワ語と似ている。
 10時過ぎ、楽しいパーティー&ミーティング終了。大通りまでみんなで歩いて行き、ジープニーを捕まえて乗りこむ。それぞれ家に近いところで降りて行くが、メンバーの何人かが私をホテルまで送ってくれた。わざわざ送ってもらうのは悪いので断ったのだが、「危ないから」と最後まで送ってくれた。
 どうもありがとう。今日はとても楽しい1日だったよ。