SOUTH SEAS VOICE WORKSHOP

サラマッポ・ダバオ 8

1999年3月28日(日)

 今日は日曜日なので教会へ行く。UCCP(United Church of Christ Philippines)というところ。ここの教会は毎月2回、インドネシア語の礼拝もある。タガログ語のほかにセブアノ語の礼拝もある。イスラムのイメージがあるミンダナオ島だが、ダバオはクリスチャンが多い。カトリックが主であるが、プロテスタントもかなりいる。イースター前の受難週で、お祝いの雰囲気があった。さすがはフィリピン、聖歌隊が上手だ。
 礼拝が終わり、外に出た門のところでギンギンの妹を待つ。今日こそダバオを案内すると、朝電話がかかってきたのだった。
「ハロー!アーユータカシ?」
「ああ、そうだよ。君、ギンギンの妹?」
「マイ・ネーム・イズ・シャロン、そして、私の弟ゲイリー」
「こんにちは」
「日本人だというから探していたんだけど、タカシさんはチャイニーズみたいね」
「よく間違われるんだよね…へへ」
 ギンギンの妹シャロンはギンギンにそっくり。先週の金曜日、大学を卒業したばかりで、今は仕事もなく、ゆっくりしているという。早速だが、もうお昼が近いので食事にしよう。近くを歩いて食堂を探す。恒例のトロトロでフィリピン・ファスト・フード。このスタイルがすっかり好きになってしまった。
 食事の後はどこへ行こう…。街はもう随分歩いたし。シャロンはあまり外を歩かないらしく、すぐにアイデアが浮かばない。ならば地図を見て…。そういえば海へ行っていなかった。少し行けばすぐ海である。というわけでジープニーに乗り、マグサイサイ通りの東端にあるマグサイサイ公園へ。入園料3人で6ペソを払う。スケート場やメリー・ゴーランドもあるが、昼間なので誰もいない。海の方へ行くと、向こうの方にサマル島が見える。シャロンの故郷でもある。海岸にはバジャウと呼ばれる人達のスラム街がある。汚水が流された海岸は、東南アジアにはよくある光景だ。その水に入って遊ぶバジャウの裸の子供達が私達に向かってコインをせびる。バジャウはムスリムらしいが、ここダバオでは一般的にムスリムは貧乏人として蔑視されている。彼らは生まれるとすぐ、親に水の中に投げ込まれるという。小さい頃から水と共に生きる。そんな彼らは泳ぎがうまい。言葉も違うらしく、シャロンが話しかけても答えが返って来ない。彼らは「1ペソくれ!」という言葉だけは知っているようだ。
 シャロンが1ペソ・コインを海に投げると、すぐさま水にもぐってコインを受け取る。あんなに汚い水の中でコインがちゃんと見えるとはたいしたもんだ。と、ある子供が水の中の小魚を手で捕まえた。みんなも一緒に。小さい頃私も海のすぐそばに住んでいたが、泳ぎながら小魚を捕まえようとしても、素早く逃げられて絶対に捕まえられなかった。けれども、彼らはいとも簡単につかまえてしまう。中にはつかまえた小魚をそのまま食べてしまう子供もいた。
 向こうから女の子のバジャウがやってきた。彼女達は服を着ていたが、平気で水の中に入ってゆく。歌を歌いながら踊る。バジャウ伝統の踊りだろうか。私達のまわりにも何人か人がいたが、海の方を見ていると、バジャウ達が大勢集まってきた。水などかけられたらいやなので、そこを離れた。
 さて、次はどこへ行こうか。シャロンの彼氏が住んでいるところへ行こうという話もあったが、ちょっと遠いのと、シャロンが恥ずかしいようなのでNG。しかし、行き先のアイデアが浮かばないシャロン。ならばと、少しだけ行って見たかった仏教寺院へ行ってみることにしよう。
 ダバオ。シティの北の方にある龍華寺というところ。お寺というと、普通一般に開かれているイメージがあるが、ここフィリピンでは治安がよくないせいか、門が閉ざされていた。番をしているおじさんがいたので、頼んで中に入れてもらった。相当立派な建物で、正面には「南無阿彌佗佛(ナムアミダブツ)」と書いてある。中に入ると大きなブッダの像があった。結構新しそう。シャロンもゲイリーも、ジープニーでこのお寺の前をよく通っていて知ってはいたが、中に入ったのは初めてだそうだ。素晴らしい仏教建造物に驚いていた。インドネシアの中国寺院だと、仏教と道教が混ざっているところが多いが、ここのお寺は純粋に仏教だけらしい。そして、道教のお寺はまた別のところにあるという。歩いてそこまで行ってみることにした。こちらも立派な建物。あばら屋ばかり立ち並ぶダバオの街にひと際目立つ寺院。こちらも扉が閉ざされていたので、中には入れなかった。辺りで華人らしき人は見かけなかったが、いったいどこに信者がいるのだろうか。華人にはアジアじゅうどこにいっても出会う。彼らの生活の象徴のひとつがこういったお寺だが、日本と文化が近いからなのだろうか、お寺を見るとなんとなくほっとする。
 お寺を後にし、次は…。相変わらずアイデアの浮かばないシャロン。仕方がないので、買い物へ行こう。テープやCDをまだ買っていなかった。昨日も来たヴィクトリア・モールへ行く。暑いところから一気にエアコンがんがんの涼しいスペースへ。歩き疲れたので、モール内のJolibeeへ行ってアイスティーを飲む。リフレッシュしたところで2階のカセット屋へ。私の悪い癖で、いつも大量に買ってしまうので、今日はセーブしつつ…。でも、店のお姉さんがどんどんと勧めて聴かせてくれるので、すぐに10本ほどになってしまった。欲しいものでないものもあったが…。そして、1階にある別のお店へ。ここでも店のお姉さんがいっぱい勧めてくれる。そして、またもや10本ほど。しかし、ここの店はカードが使えないということが分かり、返却。お姉さんたちがっかり。けれど、これだけ大きなモールの店でカードが使えないのはおかしいよ。先ほどの店はちゃんと使えたし。
 さて、ヴィクトリア・モールを出る。シャロンの大学が近くにあるというので、歩いて行く。卒業式を終えて、大学は休みだが、バスケット・ボールをしている若者達がいた。キャンパスには色々なクラブ活動があるらしく、掲示板にも色々書いてあった。その中に普通のクラブと違ったものがあった。シャロンの説明では詳しく分からなかったが、キャンパスにいくつかグループがあり、学生達はそこに属するために体力試験があるのだという。それもちょっと怖い試験で、火のついた煙草を腕に擦り付けるのを我慢する試験や、棒で足を何十回も叩き、それに耐える試験など。そういえば、ドドンもそんなことを言っていたな…。2日前の金曜日、その試験があると言っていた。シャロンもやったという。暴力団への入団のようなものをイメージしたが、いったいどんなものなのだろうか。フィリピンではごく普通のことだそうだ…。
 シャロンと喋りながら、キャンパスをひと通りまわり、別のモールへ。初日にも来たガイサノ・モール。ここのスーパーでお土産のフィリピン料理の素やフィリピン特産キャラメルなどを買う。マンゴスチンやドリアンのキャラメル(後で食べたら美味しくなかった!)。そして、またもやカセット屋へ行き、10本ほど買ってしまった。
 買い物をしているうちに外が暗くなってきた。シャロンももう帰る時間だ。一緒に夕食をしてからと思ったが、遅くなるといけないからと、先に帰った。なんとなく歩いただけの一日だったけれど、どうもありがとう。
 フォーチュン・インまではそれほど遠くなかったので、ひとり歩いて帰った。いっぱい買ったものを部屋に置き、それから再び出発。すでに8時をまわっていた。アポ・ビューホテルの近くのバー街へいってみよう、と歩いて行く。途中、マンダヤ・ホテルがあった。もしやと思い覗いてみたら…。
「おいおい、みんな!」
「あっ、タカシ!」
ドドンと握手を交わす。バンドのみんなも集まっていた。
「コタバトへ行って帰ってきたんだよ。」
「え?コタバト行ってたの?大丈夫だった?」
「ちょっと危ない雰囲気だったけどね…」
「今日こそグレースが歌うんだよ。まあ、座りなよ。」
 グレースは2階のオープン・スペースのコーヒー・ラウンジで、ピアニストのおばさんの伴奏に合わせて歌った。英語の有名なナンバー。キーが合わないらしく、よく止まる。けれど、大きなホテルでグレースが歌うのを前に、みんな得意気。歌が終わった後、1階のコーヒー・ショップで、ホテルのマネージャーが飲み物をご馳走してくれるという。みんな大喜び。でも、はしゃぎすぎるなよ!静かに!
 みんな年齢は10代後半から20代前半。本当に元気だ。いくら話しても話題が尽きない。私もちょっと歳をとったが、いつまでもこういう風にいきたいものだ。
 11過ぎまでホテルでお喋りし、外に出た。今からどこかへ行こうという話もあったが、人数もちょっと多いのでやめ。明日帰る私に、みんな寂しがってくれた。が、また来ればいいさ。最後にみんなで記念撮影。そして、ジープニーに乗り、バイバイ!
 私はひとり、もう少しだけ歩こうかと思った。と、後ろからドドンの声。ドドンはみんなとは反対方向に住んでいる。ドドンは金曜日の例の試験で足をいためていたのに加え、昨日は友達の誕生会でサマル島へ行っていたそうで、かなりお疲れのようであった。が、そこを…。
「ドドン、お腹空かないか?」
「は?はい、空いてます。」
「行こうぜ、食べに。」
疲れていたドドンだが、すぐ元気に。
「いいところありまっせ。行きましょう!」
ジープニーに乗って行ったところはマグサイサイ公園。本当はここに美味しい屋台が出るらしいのだが、今日は残念ながらクローズ。けれど、近くのバーで、結構ハードな音楽のライヴをやっていたので入ってみた。タガログ語の歌ばかりを歌う女性だが、演奏が泥臭くてなかなかいい。もうちょっと見たい気もしたが、この辺りはあまり安全でないらしく、適当に切り上げた。あとはどこへ…。ドドンの決断は早い。マンダヤ・ホテルの近くまで戻り、歩いて探すと、ファスト・フード店があった。そこでドドンはチキン・ライスを注文。私は麺にした。麺に関しては、ダバオで美味しいものに当たったことがない。ここも例外なく…。
 最後の夜を、ドドンと一緒に語りつつ、1時前、宿に戻る。ドドンは今日もジープニー見つかっただろうか…。